07月29日 民営化≠自由競争
・他の会社と競争してください。
・競争するなら運送屋でもコンビニチェーンでもなんでもなってください。
国はあなたたちの身分は保証しません。
・いま預っているお金は全部放出してください。
・国の借金は引き続き肩代わりしてください。
参議院選挙を過ぎた頃から、郵政民営化の政府素案が新聞紙面を賑わっていますが、平たく言えば、先に列挙したことを実行すると言っているわけです。
過去に民営化が行なわれた旧国鉄、旧電電公社、旧専売公社はどうでしょうか。
旧国鉄は「我田引鉄」で引かれた線路を維持し、日増しに膨張する赤字を解消するために民営化されたわけですが、37兆(民営化当時)という膨大な負債は、国鉄清算事業団が解散しても残り、結局はわれわれの税金で返済しています。
加えて、旧国鉄の借金の一部は郵便貯金の積立金から払われていることも注目したい点です。
一方、旧電電公社は国内はもとより、海外の電気通信市場の参入を目的に実施されましたが、携帯電話が浸透し、IP電話が一般家庭にも入ってきている現在でも、全国の電柱と電話線を握っているNTT一社の独占状態。旧専売公社においても製造原価が高い、そして外国タバコの参入を容易にするという理由でしたが、この19年でタバコが値下げしたという話を一切聞いたことがありませんし、タバコの独占販売は継続して行なわれている状態です。
すなわち、民営化されても本来の目的は未だ達成されず、その独占性を保持したまま現在に至っているわけです。確かに利用者、消費者の目に見えるところでは大きな変化を遂げてはいるのですが、見かけの部分だけ変わったように見せて、実は根本的には旧来の問題をいつまでもひきずっています。
JRを例にとれば、職員の対応は親切になり、きれいで涼しい電車に乗って通勤や旅行ができ、ICカードで雑貨まで買えるようになりました。しかし、地方路線は本数の削減、北海道、九州、四国は実質的な運賃値上げが行なわれています。
NTTも他社参入で選択肢が広がり、通話料が以前では考えられないほどに安くなりました。しかし、公衆電話の撤去、電話局の統廃合など採算の合わないものはどんどん切り落とされていますし、他の通信事業者は未だにNTTの顔色をうかがわざるにはいられない状態です。
JTも禁煙志向の高まりから、農産部門、製薬部門や飲料部門に事業を拡大していますが、これらの事業は他社との競合が高い分野で、非常に苦戦しているのが現状です。
本当にうまくいっているのかな、と思ってしまう今日この頃。実のところ、法人税収入が欲しいだけなのではないかと感じます。
翻って、郵政事業民営化の本来の目的は何だったのかと思い返せば、
1.郵便事業が国家独占事業であり、民間企業の参入を阻んでいる。
2.国民の資産が郵便貯金や簡易保険に流入し、金融市場の自由化を阻んでいる。
3.膨大な郵便貯金や簡易保険の預り金が財政投融資に組み入れられることで、特殊法人が無駄遣いをしている。
だったと思われます。
まず1.について、旧郵政省が地域振興券の配達を「信書だ」という理由で宅配業者にさせなかったことを、小泉首相は国会の壇上で空手チョップの手振りをさせながら、
「民間企業の参入を阻む旧郵政省の訳のわからない論理は小泉内閣では通用しない!」
と答えて、一気に旧郵政省を批判する先鞭を切ったわけですが、冷静に考えてみると、果たして他社の経営を圧迫させるほど郵便事業が儲かっている商売なのか、という疑問が起こります。
たった一枚のはがきを送るには相当な手間と人手がかかっているわけで、業務用の荷物や貨物をトラック貸切で運ぶよりも手間がかかる割に儲けが小さい…。こんな割の合わない商売を本気でやろうとする営利企業が本当に出てくるかは疑問です。
大手の民間運輸業者がカタログの発送代行業務だけを行ない、個別配達は郵便システムを用いているのが現状です。
2.について、これを旧郵政省の責任に転嫁させようとしていますが、実際、お金を預けたのはわれわれです。230兆円近い預金量をあたかも「埋蔵金」のように報道している不見識なマスコミがたまにいますが、われわれ一人ひとりが預けた貯金に対してよくそういう言い方ができるなと唖然してしまいます。
私の貯金はまぎれもなく私の財産です。必要なときに自由に預け、必要に応じて自由に引き出すことのできるお金です。払えと命令されて納めた税金ではありません。
われわれがあまたある金融機関や生命保険会社の中から郵便局を選んだのは選んだなりの理由があるからです。お国の保証があるから、全国どこでも引き出せるから、利息が少し高めだから、休日引出しの手数料がゼロだから、他に預けるところがないから…メリットがあるから預けたのです。
文句を言うならわれわれに、「もっと他の金融機関を使え」と言ってもらいたいわけですが、これを言ってしまったら支持率は確実に落ちますから、文句を言う相手を変えているだけです。
さらに、銀行をはじめとする金融機関は、郵便貯金や簡易保険のお金が放出されることで預け変えが進むことを狙っているわけですが、濡れ手で粟をつかむような考え方に思えてなりません。しかもこれらのお金は結局のところバブル時代の不良債権の穴埋めで使われることが目に見えています。
そして3.。本来変えなければならないのはこの部分です。小泉首相は就任時に「天下りの徹底的見直しをする」と言って、高い支持を得ました。天下りの温床となっている特殊法人を見直し、必要なものとそうでないものを吟味し、さらにお金の使い方を徹底的にチェックして無駄遣いをなくす…そのための「特殊法人改革」ではなかったのでしょうか。
しかし、道路公団の例ひとつとっても、引き続き税金で道路は作られ、公団関連企業の天下り経営陣は相変わらずイスに座っています。以前と何がどう変わったのか、よく考えてみる必要があります。
「天下りが多い特殊法人が財政投融資を使って無駄遣いしているから、資金源である郵便貯金事業や簡易保険事業を縮小し、カネの入りを元からストップさせる」
という論理は一見画期的と思いますが、言い方を変えれば、
「ナイフを使った犯罪が多いから、供給源である刃物工場に経営縮小させる」
と言っているようなもので、まっとうな目的のもとでナイフを作り、売り、使っている人たちがとばっちりを食うだけです。
さらに言い方を変えれば、
「近所の道路で漏水しているから、水源の河川事務所へ修理を依頼する」
ことであり、文句のつける場所が違うとしかいいようがありません。
4年前のちょうどこの頃、経営不振で給料も未払いにされた挙げ句、倒産してしまった会社に勤めていた私が「改革断行」のニュースに釘づけになり、ささやかな期待を寄せたものは一体何だったのでしょうか。
さまざまな疑問を残しつつ、この話題についてこれからも引き続き取り上げていきたいと思います。
関連ページ
→郵政民営化議論に水を差す(4)〜「こんな程度」の温度差〜
→郵政民営化議論に水を差す(3)〜最悪のシナリオ〜
→郵政民営化議論に水を差す(2)〜真の敵は誰?〜
→郵政民営化議論に水を差す(1)〜民営化≠自由競争〜
関連書籍紹介(Amazon経由)
→『郵政民営化論』 PHP研究所 1999
論争を生んだ一冊。民営化を主張する本来の意味を振り返るときに読みたい一冊。
→『論争・郵便局が消える日』 中央公論新社 2001
各論客の意見のばらつきにこの問題が一朝一夕に行かないことを物語ります。
→『特定郵便局の真実』 ダイヤモンド社 2004
経営者的視点を持った特定局長を取り上げたリポート。多少ヨイショが入っています。
→『日本の郵政 平成16年版』 郵研社 2004
資料集。どんな事業を展開しているのかをまず理解することから始まります。
→『郵便創業120年の歴史』 ぎょうせい 1992
資料集。歴史を知ることからすべては始まります。
→『村の郵便局の100年―特定郵便局のあゆみ』 新葉社 1990
写真集。特定局が過疎地域にとってどのような機能を果たしているのかが理解できます。
→『国鉄解体―戦後40年の歩み』 筑摩書房 1988
郵政民営化について考えるときに振り返ってみたい国鉄が歩んだ道。
郵政事業に関するムダ知識
1.「保健所」は昔、簡易保険の健康相談所だった
2.「郵便体操」の作曲者は「アデランス」のサウンドロゴ作曲者と同じ、小山内たけとも氏。