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 「便利って本当にいいことなのかな」

IT(情報技術)の進展は目まぐるしいものがあり、日常生活のいたるところにその技術が使われています。
しかし便利さの恩恵にあずかりながらも、便利であれば何でも許されるのか、そろそろ考えてみる必要があるのではないかと思います。

8月25日 「便利って本当にいいことなのかな」

 表題のことばは先日8月23日、TBSラジオの「土曜ワイドラジオTOKYO」で放送作家の永六輔氏が、インターネットや携帯電話を話題にしていたところで語ったことばです。
 以前は、群馬や栃木あたりの県道をクルマで走っているときに聞くのがいちばん似合う、とてものどかで古臭い展開の番組だなと思っていましたが、しばらく聞いているうちに、「ことばの面白さ」を改めて知ることのできる番組だと思えるようになり、このごろは毎週聞いていますが、今回のことばは妙にあとに残りました。

 さて、いよいよ25日より住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)の2次稼動が開始されますが、それに併せて、住民票の取り寄せ等で使用する住民基本台帳カード(住基カード)の交付も全国各地で開始されます。

 キャッシュカードと同じ大きさをした住基カードにはICチップが組み込まれ、そこに個人情報などが記録される仕組みとなっています。このICチップは400字詰め原稿用紙約20枚分の情報を記憶できる能力を持っているそうです。
 こうしたICチップを組み込んだカードは、身近なところでは、自動改札機に触れるだけで改札、精算ができるJR東日本の「Suica(スイカ)」やJR西日本の「ICOCA(イコカ)」、料金所で一旦停止しないで支払いができる「ETC」の精算カード、そして一部のクレジットカードに採用されています。

 実際、私は「Suica」を使っていますが、これは正直に便利と言えます。パスケースからカードを出さなくても自動改札を通過できる、精算用のお金をカードに記憶する(チャージ)こともできる、従来のオレンジカードやイオカードと異なり端数が出ない、使用済みカードが生じないためごみの心配がない、履歴が印字できる…など、メリットを挙げればいくらでも出てきます。

 それでは住基カードはどうでしょうか。現時点でカードを持っていてできることは「住民票などの証明書を全国どこでも簡単に発行できるようにする」、「転出入の手続きが簡単にできる」です。一部の地方自治体では「市立病院の診察券として使える」、「健康診断や予防接種の記録として用いる」などを計画しています。
 また今後は、納税や電子投票で使えるようにしようという計画もあり、「『電子政府』が実現することでますます便利になる」と政府はいいます。

 しかしよく考えてみれば、住民票なんて年に何十枚も取得するような書類ではなく、転出入もそう頻繁に行なうものでもありません。しかも本人確認のできる証明書を提示できればカードがなくとも交付ができます。果たしてカードは今すぐ必要なのか、という疑問が残ります。
 ただ、休日出勤などで窓口に行けない人が自動交付機などで取得したり、写真付きの身分証明を持っていない人にとってはカードを取得し利用する価値はあるかもしれません。

 さらに、ICカードの記憶性を用いてさまざまな行政サービスに活用できるようですが、必要以上に個人情報が集中し蓄積してしまうなどの問題があります。病院の診察券や健康診断の記録に使うということは、個人の体重から体質、いつ何の病気にかかって、どんな薬を処方されたかが蓄積されることであり、しかも簡単な操作で蓄積されたデータを呼び出せるということです。
 キーワードの組み合わせひとつで、データベース内の情報を芋づる式に引き出すことができるのは、インターネットの検索エンジンを使うとご理解できるかと思います。他人に知られたくない病気にかかってしまったら、その記録がずっと残り、いつでも情報が引き出せてしまう問題があります。自らの努力だけでは防ぎようのない病気は山ほどあります。

 確かに使いようによっては便利なのかもしれません。けれども、なにかが違う…。「Suica」の便利さは簡単に受け入れられました。六輔さんのように携帯電話やインターネットが肌に合わないわけでもなく、すんなり導入して活用し、その恩恵を受けています。
 しかし、住基カードの便利さを受け入れることができない自分がここにいるわけです。

 セキュリティの問題、個人情報が一極集中することの問題、そしてこれらの情報が本人の意図しないところで引き出され、使用されることの危険性…住基ネットにはまだ解決しきれていない問題点がたくさんあります。解決や改善がいまひとつ不明瞭な段階で、個人に対するインターフェイスを設けることは時期尚早であると考えます。はっきり言えば、便利さと引き換えに得るリスクが大きすぎるのです。

 冒頭の「便利って本当にいいことなのかな」ということばは、便利さに慣れた人からすれば「いいに決まっているじゃないか」と突き返されるかもしれません。けれども、便利であることが当たり前になってしまっている時こそ、この問いについて深く考える必要があります。
 個人的意見をはさめば、現時点でのカードの取得は見送りたいと考えているところです。

 最後に余談を。
「人間は、無用な知識が増えることで快感を感じることができる、唯一の動物である」
テレビ番組「トリビアの泉」をきっかけに広く知れ渡ったSF作家・アシモフのことばですが、データベースに誰も利用しないけれども無用な知識だけが増えていく、それだけで快感を得る存在がいたとしたら…。活用されるわけでもないのに情報だけが蓄積されていく、これはこれで怖いものがあります。

 たとえ不便でも、守りたいものがあります。

関連・参考サイト

総務省・住民基本台帳システム
自治体情報政策研究所
住民基本台帳ネットワーク

土曜ワイドラジオTOKYO 永六輔その新世界
株式会社デンソーウェーブ
ICカードの基礎知識

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